血圧の基準値は実は細かく別れており、一般の方には少し複雑でわかりにくいものとなっています。
循環器内科専門医が詳しく解説します。
少々込み入った内容ですが、お読みいただくと血圧に関する理解が深まると思います。
診察室血圧(病院等で測った血圧)による分類
日本の高血圧ガイドラインでは診察室血圧140/90mmHg以上を高血圧としています。
日本で行われた様々な疫学研究で、診察室血圧140/90mmHg以上の方は、脳卒中や心臓病の死亡率が明らかに増加しているためです。
世界のほとんどの国でこれと同じ基準が用いられていますが、米国においては欧米で行われた疫学研究の結果をもとに、130/80mmHg以上を高血圧としています。
どちらがよいかは今後研究者の間で議論されていくと思われますが、さしあたって日本では日本国内のデータを重視し、140/90mmHg以上を高血圧としています。
従来、140/90mmHg未満の血圧は基本的には正常血圧とされていました。
しかし近年の研究で、120/80mmHg未満と比べると、120-129/80-84mmHg、130-139/85-89mmHgの順に、脳卒中や心臓病の発症率が高いことが示されています。
したがって、日本における最新の高血圧ガイドラインでは、完全に正常な血圧は120/80mmHg未満です。
そして、高血圧の診断基準は満たさないものの、120-129/80-84mmHgは「正常高値血圧」、130-139/85-89mmHgは「高値血圧」として、正常血圧よりはリスクの高い状態であることを表しています。
また、高血圧は重症度に応じてⅠ~Ⅲ度に分類されています。
140-159/90-99mmHgがⅠ度高血圧、160-179/100-109mmHg がⅡ度高血圧、180/110mmHg以上がⅢ度高血圧となります。
当然高いほど重症度が高いです。
まとめると、診察室血圧による分類は以下のようになります。
120/80mmHg未満:正常血圧
120-129かつ80mmHg未満:正常高値血圧
130-139/80-89mmHg:高値血圧
140-159/90-99mmHg:Ⅰ度高血圧
160-179/100-109mmHg:Ⅱ度高血圧
180/110mmHg以上:Ⅲ度高血圧
家庭血圧による分類
家庭血圧を用いた高血圧の診断基準も決められています。
家庭血圧の測り方はこちらの記事を御覧ください。
家庭血圧においては、135/85mmHg以上を高血圧としています。
日本の高血圧ガイドラインでは、家庭血圧による分類を以下のように定めています。
115/75mmHg未満:正常血圧
115-124かつ75mmHg未満:正常高値血圧
125-134/75-84mmHg:高値血圧
135-144/85-89mmHg:Ⅰ度高血圧
145-159/90-99mmHg:Ⅱ度高血圧
160/100mmHg以上:Ⅲ度高血圧
診察室血圧と家庭血圧に差がある場合は?
診察室血圧と家庭血圧に差がある場合はどのように判断したらよいでしょうか?
この場合は、家庭血圧による診断を優先することとなっています。
なぜなら、多くの研究によって家庭血圧のほうが正確な血圧を反映しており、予後予測能が高いことが示されているからです。
家庭血圧でわかること
白衣高血圧
白衣高血圧とは、診察室血圧が高血圧であっても、家庭血圧では正常となることです。
診察室血圧で高血圧と診断された方の15-30%がこれに該当するとされており、高齢者の方ほどその割合が高いと言われています。
白衣高血圧の方は、家庭血圧、診察室血圧ともに高い方と比較すると将来の脳卒中や心臓病のリスクは高くないと言われています。
しかし、家庭血圧、診察室血圧ともに正常な方と比較すると、将来の脳卒中や心臓病のリスクが高くなるといわれています。
そのため、注意深いフォローアップが必要とされています。
仮面高血圧
仮面高血圧とは、診察室血圧が正常であっても、家庭血圧では高血圧となることです。
血圧は日内変動があるため、診察室での測定だけではわからない高血圧が家庭血圧の測定によって判明することがあります。
血圧が高い時間帯によって、早朝高血圧、昼間高血圧、夜間高血圧に分けられます。
早朝高血圧
早朝高血圧には夜間高血圧から移行するタイプと、朝方急激に血圧が上昇するモーニングサージタイプがあります。
軽度のモーニングサージは生理的現象ですが、過度のモーニングサージはリスクとなります。
アルコール、喫煙、寒冷刺激などは早朝高血圧を引き起こしやすくなります。
早朝高血圧はどのようなタイプであっても、脳卒中や心臓病のリスクが高くなります。
昼間高血圧
このタイプは職場や家庭でのストレスが多い方で、ストレスのある昼間に血圧が上昇するため、ストレス下高血圧ともいわれます。
肥満の人に多いことも報告されています。
夜間高血圧
このタイプは夜間睡眠中の血圧上昇がみられるため、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)という特殊な測定法でないとわかりません。
夜間血圧高値が起床後まで続いている場合は、家庭血圧測定で早朝高血圧として検出されます。
通常夜間の血圧は昼間の血圧より変動幅が少なく、その平均値が増加している場合、より強く脳卒中や心臓病の発症と関連しているとされています。
血圧の日内変動について
夜間の血圧は通常昼間と比べて10-20%低下します。
この正常タイプをdipperとよび、夜間の血圧低下が少ないタイプをnon-dipper、逆に夜間に血圧上昇を示すタイプをriserと呼びます。
non-dipperやriserは、脳、心臓、腎臓すべての臓器障害や脳心血管死亡のリスクが高いです。
また、riserに睡眠時間の短縮が加わると、脳卒中や心臓病のリスクがさらに高くなります。
加えて、夜間の脈拍数の低下が少ない脈拍non-dipperもハイリスクと言われており、血圧と脈拍ともにnon-dipperの場合に最もリスクが高くなります。
夜間交代勤務者(シフトワーカー)においては、昼間の睡眠は夜間の睡眠と比較して、交感神経活動が十分に低下しないため、血圧低下が生じにくく、non-dipperとなりやすいです。
まとめ
診察室血圧においては、140/90mmHg以上が高血圧です。
家庭血圧においては、135/85mmHg以上が高血圧です。
完全に正常な血圧は診察室血圧120/80mmHg未満、家庭血圧115/75mmHg未満です。
白衣高血圧とは、診察室血圧が高血圧であっても、家庭血圧では正常となることです。
仮面高血圧とは、診察室血圧が正常であっても、家庭血圧では高血圧となることです。
特に早朝や夜間の高血圧で脳卒中や心臓病のリスクが上昇します。
高血圧とわかったら放置するのは危険なので早めに受診しましょう。
参考文献:高血圧治療ガイドライン2019 (日本高血圧学会)
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